マネーガイドジャーナル
公的支援・安全な借入更新 2026.10.16

給与を差し押さえられたとき、手元に残る額はどう決まるか

給与の差押えで守られる金額の決め方は一つではありません。民事執行法152条の「4分の3・33万円」と、国税徴収法76条の積み上げ計算。二つの式を条文と政令で確認し、数字を当てはめて違いを並べます。生活が成り立たないときに条文上ある手当ても示します。

給与を差し押さえられたとき、手元に残る額はどう決まるか

給与が差し押さえられても、給与の全額が差し押さえられるわけではありません。法律は、差し押さえてはならない部分を定めています。ただし、その計算式は一つではなく、二つあります。借金など民間の債権による差押えと、税・社会保険料の滞納処分による差押えでは、守られる金額の決め方が大きく異なります。本記事では、二つの計算式を条文にもとづいて比較し、具体的な数字を当てはめて説明します。実際に給与から差し引かれる金額は、差押命令の書面にもとづき勤務先の給与担当が計算するか、税務署・自治体の徴収窓口が計算します。本記事で示すのは、計算式の構造のみです。

二つの計算式の概要

式A:民間の債権(借金・立替金など)式B:税・社会保険料の滞納処分
根拠条文民事執行法152条+民事執行法施行令2条国税徴収法76条+国税徴収法施行令34条
考え方給付の4分の3を守る。ただし上限あり必要な項目を積み上げて守る
家族構成の反映式には現れない生計を一にする親族の人数が金額に反映される
上限・下限毎月払なら33万円が守られる額の上限積み上げの結果次第で、33万円を上回ることも下回ることもある

式A:民間の債権による差押え

条文の規定

民事執行法152条1項は、給料、賃金、俸給、退職年金、賞与などに係る債権について、「その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない」と定めています。そして民事執行法施行令2条1項1号は、支払期が毎月と定められている場合の政令で定める額を33万円としています(毎半月なら16万5000円、毎旬なら11万円、毎日なら1万1000円)。賞与についても33万円です。出典:民事執行法 第152条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)/民事執行法施行令 第2条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)

裁判所による説明

裁判所は債権執行の案内のなかで、「例えば、給料の差押えの場合、原則として相手方の給料の4分の1(月給で44万円を超える場合には、33万円を除いた金額)を差し押さえることができます」と説明しています。44万円という数字は、44万円の4分の3がちょうど33万円になるためです。出典:債権執行(債務名義に基づく差押え)|裁判所(2026年9月25日確認)

計算例

給付額(支払期に受けるべき給付)を仮定して計算すると、次のとおりです。

給付額(毎月払)4分の3守られる額差し押さえられる額
20万円15万円15万円(33万円以下なので4分の3がそのまま守られる)5万円
30万円22万5000円22万5000円7万5000円
44万円33万円33万円(この金額が境目)11万円
50万円37万5000円33万円(上限に切り下げられる)17万円
60万円45万円33万円27万円

給付額が44万円を超える場合、超えた部分は全額が差押えの対象となります。なお、養育費など民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権を請求する場合は、「四分の三」が「二分の一」に読み替えられます(同法152条3項)。

条文が基準としているのは「支払期に受けるべき給付」です。源泉徴収される所得税や社会保険料をどう扱うかは条文そのものには書かれておらず、実際の計算は差押命令と勤務先(第三債務者)の処理によります。自分のケースの具体的な金額は、届いた書面と勤務先の給与担当に確認してください。

式B:税・社会保険料の滞納処分による差押え

五つの項目の積み上げ

国税徴収法76条1項は、給料等について、次の金額の合計額に達するまでの部分は差し押さえることができないと定めています。

  1. その給料等につき徴収される源泉所得税に相当する金額
  2. 特別徴収の方法によって徴収される道府県民税・市町村民税および森林環境税に相当する金額
  3. その給料等から控除される社会保険料に相当する金額
  4. 生活保護法の生活扶助の基準を勘案して政令で定める金額
  5. 給料等から①〜④の合計を控除した金額の20%に相当する金額(その金額が④の2倍に相当する金額を超えるときは、④の2倍に相当する金額)

そして④の「政令で定める金額」について、国税徴収法施行令34条は「一月ごとに十万七千円(滞納者と生計を一にする配偶者その他の親族があるときは、これらの者一人につき四万八千円を加算した金額)」と定めています。出典:国税徴収法 第76条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)/国税徴収法施行令 第34条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)

計算例(考え方を示すための試算)

給料等の総額30万円、源泉所得税6000円、特別徴収の住民税1万円、社会保険料4万4000円と仮定します。

項目単身の場合配偶者と子1人(生計を一にする親族2人)の場合
① 源泉所得税6,000円6,000円
② 特別徴収の住民税等10,000円10,000円
③ 社会保険料44,000円44,000円
④ 政令で定める金額107,000円107,000円+48,000円×2人=203,000円
①〜④の合計167,000円263,000円
残額(30万円−①〜④)133,000円37,000円
⑤ 残額の20%26,600円7,400円
差押禁止額(①〜⑤の合計)193,600円270,400円
差押えの対象になり得る額106,400円29,600円

この計算は、条文の構造を説明するために数字を仮定したものです。実際の源泉所得税額・住民税額・社会保険料額は個々の給与によって異なり、最終的な金額は徴収窓口が計算します。

賞与・退職手当の扱い

賞与およびその性質を有する給与に係る債権については、支払を受けるべき時における給料等とみなして同じ規定が適用され、その際④⑤の限度の計算は支給の基礎となった期間が1か月であるものとみなして行われます(同条3項)。退職手当等については、別に4項が定めを置いています。

二つの計算式の比較

  • 家族構成が反映されるのは式Bだけ。式Aの「4分の3/33万円」には扶養の有無が現れません。式Bは④で親族1人ごとに4万8000円が加算されます。
  • 前提によっては、守られる額の大小が逆転する。式Aは33万円で頭打ちになりますが、式Bは扶養が多いほど守られる額が増えるため、前提次第で守られる額の大小は入れ替わります。
  • どちらの計算式が適用されるかは、差押えの根拠によって決まる。債務者が選択することはできません。届いた書面が裁判所からのものか、税務署・自治体・年金機構からのものかを確認してください。違いの全体像は差押えには二つの道があるにまとめています。

差押え後も生活が成り立たない場合の手段

民間の債権の場合:差押禁止債権の範囲の変更

民事執行法153条1項は、「執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる」と定めています。生活の状況を理由として、差押えが禁止される範囲の変更を申し立てる手段が条文上設けられています。申立ての可否・方法は執行裁判所にご確認ください。出典:民事執行法 第153条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)

税・社会保険料の場合:猶予と滞納処分の停止

申請にもとづく換価の猶予が認められると、財産の差押えや換価(売却)が猶予され、猶予期間中の延滞税が軽減されます。準備するものは税金の猶予・分納を申し出るとき、何を用意し、何を聞かれるかに整理しました。また、滞納処分をすることによって生活を著しく窮迫させるおそれがあるときは、滞納処分の停止という仕組みがあり、その場合に差し押さえた財産があるときは差押えを解除しなければならないとされています(国税徴収法153条3項)。

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相談できる窓口

  • 国税:所轄の税務署(徴収担当)。猶予や分割の相談窓口は税務署の徴収担当です。国税の納税の猶予制度に関するFAQ 問1(国税庁徴収課)(2026年9月25日確認)
  • 地方税(住民税・固定資産税・自動車税など):都道府県・市区町村の納税課・収納課。
  • 社会保険料:厚生年金保険料等は日本年金機構、労働保険料は都道府県労働局。国民健康保険料・国民年金保険料は市区町村の窓口・年金事務所。
  • 生活全体の立て直し:お住まいの自治体の自立相談支援機関、社会福祉協議会(生活福祉資金貸付)。
  • 法律に関わる相談先の案内:法テラス・サポートダイヤル 0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時)。法テラス 相談窓口・ダイヤル一覧(2026年9月25日確認) 法テラスの使い方もあわせてご覧ください。
  • 契約・取引のトラブル:消費者ホットライン「188」。つながらないときは国民生活センターのバックアップ相談(03-3446-0999/平日10時〜16時)。消費者ホットライン(消費者庁)(2026年9月25日確認)

相談先が分からない場合は、相談先ディレクトリに窓口をまとめています。

本記事は制度の一般的な仕組みを公的機関の公開情報にもとづいて整理したもので、法的な助言ではありません。個別の手続の可否・金額・期限は、事情や自治体の運用によって異なります。実際の取扱いは、記事末尾に挙げた窓口でご確認ください。制度・法令は改正されることがあるため、最新の内容は各公的機関の公式情報をご参照ください。

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