差押えの二つの手続|裁判所を通す強制執行と、通さない滞納処分
同じ「差押え」でも、民間の借金と税・社会保険料では手続の構造が大きく異なります。裁判所の債務名義が必要な手続と、督促状から進む手続を比較し、連絡先・止める方法・期限の違いを、条文と裁判所の公開情報にもとづいて整理します。

「差し押さえられる」という言葉は、借金でも税金でも同じように使われます。しかし、差押えに至るまでの手続はまったく別の二つの仕組みです。一方は裁判所を通さなければ進められず、もう一方は裁判所を通しません。この違いを理解しないまま同じものと考えていると、対処の順番を誤るおそれがあります。本記事では、二つの手続を比較して整理します。
二つの手続の比較
| ① 民間の債権(借金・家賃・立替金など) | ② 税・社会保険料などの公的な徴収金 | |
|---|---|---|
| 裁判所を通すか | 通す。裁判所等が作る「債務名義」がなければ強制執行を申し立てられない | 通さない。行政庁自身が差押えを行う |
| 差押えの前に必要なもの | 確定判決・和解調書・仮執行宣言付支払督促・公正証書などの債務名義 | 督促状の発送と、そこからの一定日数の経過 |
| 起点となる書面 | 訴状・支払督促(裁判所から届く) | 督促状(税務署・自治体などから届く) |
| 申立先・実施者 | 原則として債務者の住所地を管轄する地方裁判所 | 税務署長・地方団体の長など |
| 止める・軽くする仕組み | 督促異議、差押禁止債権の範囲変更の申立てなど | 納税の猶予・換価の猶予、滞納処分の停止など |
出典:債権執行(債務名義に基づく差押え)|裁判所(2026年9月25日確認)/国税徴収法 第47条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)
手続① 民間の借金は裁判所の債務名義がなければ差し押さえられない
債務名義がない段階では差押えに進めない
カードの残高や家賃の滞納金のような民間の債権では、貸主が支払いを求めているだけでは財産を差し押さえることはできません。裁判所は、債権執行(給料や預金の差押え)の申立てにあたって「債務名義を取得してください」と案内しています。債務名義とは、判決、和解調書、民事調停調書、仮執行宣言付支払督促、公正証書などを指します。そのため、予告なく差押えが行われることはなく、その前に必ず裁判所(または公証役場)からの書面が届きます。出典:債権執行(債務名義に基づく差押え)|裁判所(2026年9月25日確認)
届いた書面への対応が重要
裁判所からの書面を放置すると、争う機会を失ったまま債務名義が成立します。とくに支払督促には、受け取ってから2週間という短い期限があります。この2週間の対応は、裁判所から支払督促が届いたらで時系列に沿って整理しています。
手続② 税・社会保険料は裁判所を通さずに差し押さえられる
起点となる督促状
国税では、納期限までに納付がないとき、税務署長は督促状によって納付を督促しなければならず、その督促状はその国税の納期限から50日以内に発するものとされています(国税通則法37条)。そして国税徴収法47条は、「滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき」に、徴収職員は財産を差し押さえなければならないと定めています。出典:国税通則法 第37条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)/国税徴収法 第47条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)
「10日」は差押えの期日ではなく、差押えが可能になる基準
この10日は「10日目に必ず差し押さえられる」という意味ではありません。条文が定めているのは、その日を過ぎると差押えが法律上可能になるという基準です。実務では催告書などを経ることが多いとされますが、裁判を経ないでよいという点が、民間の債権との決定的な違いです。地方税(住民税・固定資産税など)についても、地方税法が同様の滞納処分の仕組みを置いています。
差押えを止める・軽減する仕組みの違い
- 民間の債権:差し押さえられた給料等について、執行裁判所に差押禁止債権の範囲の変更を申し立てる方法があります(民事執行法153条)。また、支払督促の段階であれば督促異議という手続があります。
- 税・社会保険料:申請にもとづく換価の猶予や納税の猶予があり、認められると差押えや換価(売却)が猶予され、延滞税も軽減・免除されます。さらに、生活を著しく窮迫させるおそれがあるときなどには滞納処分の停止という仕組みもあります。
出典:民事執行法 第153条(e-Gov法令検索)(2026年9月25日確認)/納税に関する総合案内(国税庁)(2026年9月25日確認)
手続の違いが実際の対応に与える影響
- 連絡先が異なります。民間の債権は相手方(債権者)と裁判所、税・社会保険料は税務署・自治体・年金機構の窓口です。相手を取り違えると、対応できないまま期限が過ぎるおそれがあります。
- 支払いを待ってもらう手続の仕組みが異なります。税の猶予は申請が前提の制度で、申請しなければ適用されません。民間の債権は、相手方との話し合いか、裁判所の手続の中で主張することになります。
- 期限の長さが異なります。裁判所からの書面には2週間という不変期間があります。税の換価の猶予には、納期限から6か月以内という申請期限があります。いずれも、気づいてから対応したのでは間に合わない場合がある期間です。
複数の支払いが重なっているとき
民間の債務と公的な徴収金の両方を抱えている場合、どちらから対応するかによって生活の安定度が変わります。優先順位の考え方は複数の支払いが苦しいときの優先順位に、税の滞納から差押えまでの流れは税金が払えない場合の流れにまとめています。給与や口座が差し押さえられた場合に手元へ残る金額の考え方は、給与を差し押さえられたとき、手元に残る額の決まり方をご覧ください。
相談できる窓口
- 国税:所轄の税務署(徴収担当)。猶予や分割の相談窓口は税務署の徴収担当です。国税の納税の猶予制度に関するFAQ 問1(国税庁徴収課)(2026年9月25日確認)
- 地方税(住民税・固定資産税・自動車税など):都道府県・市区町村の納税課・収納課。
- 社会保険料:厚生年金保険料等は日本年金機構、労働保険料は都道府県労働局。国民健康保険料・国民年金保険料は市区町村の窓口・年金事務所。
- 生活全体の立て直し:お住まいの自治体の自立相談支援機関、社会福祉協議会(生活福祉資金貸付)。
- 法律に関わる相談先の案内:法テラス・サポートダイヤル 0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時)。法テラス 相談窓口・ダイヤル一覧(2026年9月25日確認) 法テラスの使い方もあわせてご覧ください。
- 契約・取引のトラブル:消費者ホットライン「188」。つながらないときは国民生活センターのバックアップ相談(03-3446-0999/平日10時〜16時)。消費者ホットライン(消費者庁)(2026年9月25日確認)
相談先が分からない場合は、相談先ディレクトリに窓口をまとめています。
この記事の執筆者
マネーガイドジャーナル編集部
金融関連の情報サイトについて多数の運営実績を持つ編集チームです。株式・不動産・FXなど幅広い金融資産の運用経験と、外資系ITコンサルティングファームで金融機関の案件に従事した実務経験をもとに、公式サイト・公的機関の一次情報を確認しながら記事を制作しています。
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